ここ数年、日本のヒップホップへの注目度が非常に高まっていますよね。
ヒップホップで使われるスラング(特定の仲間内で通じる表現)が一般にまで広がっていたり、高校生ラップ選手権などのフリースタイルラップの大会が開かれていたり、itunesのランキングでもヒップホップが1位を獲得したり。数年前までは考えらませんが、クラスに何人もヒップホップを聞いている友人がいたりもするでしょう。
実は最近はじまった文化ではなくて、日本においても30年以上の歴史を持つジャンルだったりします。これからますます日本のヒップホップは人気になっていきファン(以下、ヘッズ)も増えていきますが、より深い日本のヒップホップの世界を知って楽しむために、今回紹介する5曲は絶対に覚えておきましょう!
私自身も日本のヒップホップのヘッズになって10年以上が経過しますので、その経験もふまえて、まずおさえておくべきクラシック(名曲)をご紹介しますね!
…ちなみにヒップホップの世界では「名曲だ!」「あれはマジで名盤!」と言われる曲のことを『クラシック』と呼びます。モーツ〇ルトやベー〇ーヴェンのことを指すのではなく、ジャンルを代表する名曲という意味合いで捉えていただければ!
日本のヒップホップのクラシック①「証言」
まず日本のヒップホップを語る上で絶対に外せないのがこの曲です。曲名は「証言」で、グループ名は「LAMP EYE(ランプアイ)」です。
ヘッズになるとイントロを聞いただけでガンガンに頭が振れて、最初のRINOのヴァースからガン上がりできること間違いなしですよね。ちなみに、この記事で紹介する5曲はヘッズなら全て口ずさめますので、お近くのヒップホップファンの方に聞いてみてください!
この曲に参加したラッパーは合計9人となります。RINO LATINA II(リノラティーナセカンド)、YOU THE ROCK★(ユウザロック)、G.K.MARYAN(ジーケーマーヤン)、ZEEBRA(ジブラ)、TWIGY(ツイギー)、ヨシピィ・ダ・ガマ、DEV LARGE(デブラージ)、YOTTY(ヨッティ)、UZI(ウジ)の順でラップしています。
YOTTYバースは初回盤カセットテープのみ、UZIのバースは自身のベストアルバムのボーナストラックとして収録されていますよね。
ちなみにこの証言という曲がつくられた背景は少し複雑で、色んな説が語られています。当時の日本のヒップホップはメジャーシーンとアンダーグラウンドシーンにはっきりと分かれており、ヒップホップをあからさまにビジネスに使うメジャー側に向けた一曲だとも言われているんですよね。特にZEEBRAのバースを聞いてもらえると分かりますが、なかなか攻撃的なワードで構成されていたりします。
そういった背景がヘッズに響いたのか、1995年発売当初のレコードは即完売。夜中に何百人ものB-BOYが渋谷のレコード屋に並ぶ光景もあったんだとか。いまだに日本のヒップホップのヘッズは必ずといってもいいほど聞いていく、登竜門のような曲でもあります。
私自身もはじめてヒップホップを聞いたのは今から10年以上前ですが、証言の存在を知って驚いたことを覚えています。こんなにメッセージ性の強いカッコイイ曲が日本にあるんだ…!と、多感な時期もあってすっかり虜にされたんですよね。
今でもクラブでラップバトルのビートなどに、この証言が使われることがあります。その瞬間の会場は完全に湧きますし、その場をより楽しみたい若い世代であればぜひ、聞いておきたい1曲といえるでしょう!
※バース…verse。(文学形式としての)韻文、(ある作家・時代・国などの)詩歌、(特定の格調をもった)詩の 1 行、ラッパーがラップをする部分を指します。「曲中のZEEBRAのバースが」→ZEEBRAがラップしている部分という意味です。
日本のヒップホップのクラシック②「B-BOYイズム」
こちらも日本のヒップホップシーンを黎明期から支えたライムスターというグループの代表曲ですね。知らなきゃモグリ!と言われてしまうほどのクラシックなので、ぜひ今から聞きこんでみてください。
いわゆるB-BOYとは、ブレイクダンスをするダンサーのことを指します。
ただ今はより広い解釈をされていて、例えばヒップホップ発祥の地であるBronx(ブロンクス)のBとも言われていたりします。その概念を日本で決定づけたのがこの曲だと思っていて、beboy=本物の男に成るという解釈もあったりします。ヒップホップの4大要素としてブレイクダンス・グラフィティ・MC・DJが言われていますが、B-BOYとはそれらを広い意味で愛する人のことを指すと解釈されるようになりました。Bには色んな意味が含まれていることが分かりますよね!
私もこの曲を特に聞いていたころは、とにかく勇気をもらっていました。B-BOYとしてカッコよく生きるんだ!という哲学をといたのがまさにこの曲といえるでしょう。
また、ヒップホップではいわゆるサビのことをHOOK(フック)と言いますが、この曲のHOOKはこうつづられています。
ちなみにライムスターを知らない人は少ないと思いますが、念のため説明をば。3人組で構成されており、2人のMC(ラップ担当)と1人のDJ(音をかける人)のグループです。メンバーは宇多丸(ウタマル)、Mummy-D(マミーディー)、DJ JIN(ディージェイジン)となっており、3人の出会いは早稲田大学時代の音楽サークルなんだとか。
ゴスペラーズを業界に紹介したのもライムスターだと言われていますよね!日本のヒップホップの枠をでて俳優やラジオパーソナリティとしても活躍していますが、まずはこの曲でライムスターのことと、日本のヒップホップの当時の温度感を知ってみてください。
日本のヒップホップのクラシック③「蜂と蝶」
3曲目はSOUL SCREAM(ソウルスクリーム)の「蜂と蝶」という超名曲です。今ではフリースタイルラップの大会でもよくつかわれるトラックなので、若い世代の人も馴染みがある音かもしれません。発売は1990年代なのですが、今でも最先端の現場でかかる音楽っていかに名曲か分かりますよね…!
SOUL SCREAM(ソウルスクリーム)は3人組のヒップホップグループで、DJでありトラックメーカーでもあるDJ CELORY(ディージェイセロリ)とHAB I SCREAM (ハヴ・アイ・スクリーム)さんとE.G.G.MAN(イジジマン)というメンバー構成です。
活動初期にはALG(アレルギー)さんとSHIKI(シキ)さんがいて、パワー・ライス・クルーっていう名義で活動していたこともあったようです。
今はなくなってしまったかもですが、少し前には渋谷のクラブで日本語ラップしかかからないイベントに私も足を運んでいました。ほぼ必ずといっていいほどこの「蜂と蝶」がかかるのですが、何度聞いてもアガるんですよね。ハヴさんの真似できない声質と、イジジさんのくせになるラップがまさに「蜂と蝶」で、モハメ〇アリもビックリの仕留め具合となっています。
DJ CELORY(ディージェイセロリ)さんは人気番組「フリースタイルダンジョン」にも出演されていたり、フリースタイルラップバトルのイベントにも出演しているので、今の世代もこの蜂と蝶のトラックを耳にする機会は多いと思います。しかも、このトラックを使ったバトルはほとんどがベストバウトになるという奇跡も起きていますよね…!
今も日本のヒップホップに色濃く影響をあたえるこの一曲を、ぜひ聞いてみてください!
日本のヒップホップのクラシック④「口から出まかせ」
これは上述のライムスターが1995年6月25日に発売したアルバム「Egotopia(エゴトピア」の代表曲ですね。
なんっっといってもメンバーが豪華!!ライムスターにソウルスクリーム、そしてアメリカ帰りのキングギドラ(ZEEBRA、K DUB SHINE(ケーダブシャイン)、DJ OASIS(ディージェイオアシス))という贅沢すぎるマイクリレーが繰り広げられています…!
恥ずかしながらこの曲を知ったのはライムスターの武道館ライブでして、その時に思ったんですよね。「え?こんなメンツでマイクリレーしていいんですか?」と。
日本語で韻を踏むという行為をはじめてこの国に定着させたケーダブさんの踏みまくりのバースからはじまって鳥肌が立ったと思えば、およそパーフェクトヒップホッパーであるZEEBRAのバースで興奮が最高潮に。リリックの一部も紹介すると、「過去の栄光/すがる傾向/21世紀/それで平気/引継ぎ抜き時期就任式」と韻を踏みまくりで卒倒してしまいそうになります。
続く宇多丸のバースで当時のヒップホップシーンが机の上で語られることに対するディスから的確なアンサー。ソウルスクリームの魂の叫びからMummy-Dに繋がる流れはもはや芸術か?と思わせるマイクリレーっぷりです。
実は裏話もあって、この曲中ではじめてZEEBRAが「フリースタイルダンジョン抜けて参上」とラップしていて、そのフレーズをタイトルにしたアルバムがのちに発売されます。実はあの曲がプロモーションになっていたのかという布石に驚きながらも、今でも人気番組になった「フリースタイルダンジョン」につながっていくという、胸熱な歴史があるんですよね…!
ますます発展していく日本のヒップホップシーンを楽しむにあたっても、必聴の一曲ですな!
日本のヒップホップのクラシック⑤「人間発電所」
日本のヒップホップが好きなら絶対に知っているこの曲。BUDDHA BRAND(ブッダブランド。以下ブッダ)の「人間発電所」です。
ブッダはそのトラックの洗練された感じやフローに注目されがちですが、実は今聞いても深すぎるリリックなんですよね…!そして耳心地最強。間違いなく日本のヒップホップシーンの基盤となった一曲でしょう!
ヘッズならご存知だと思いますが、かれらはアメリカはニューヨークで結成された4人組のグループなんですよね。メンバーはアメリカにいるなかで、日本人としてのアイデンティティを失わないようにと、ブッダというワードを入れ込んだようです。
当時は変則的といわれた1人のDJに3人のMCという「1DJ3MC」の布陣でした。リーダーでトラックメーカーでプロデューサーのDEV LARGE(デヴラージ)、ラッパーのCQ(シーキュー)、ラッパーのNIPPS(ニップス)、DJのMASTERKEY(マスターキー)からなる4人組です。実はヒップホップの世界では1DJ2MCが基本的なのですが、珍しい1DJ3MCという形が逆に彼らのオリジナル性を生んだとも言われています。
1990年代に逆輸入的に日本に帰国し、ヒップホップシーンでの地位を確固たるものとします。何を隠そう私がヒップホップにどハマりしたのもこの曲のせいで、はじめて友人から聞かされた時に「なんって耳心地のいい曲なんだ…!」とすっかり好きになりました。
独特の世界観のなかでとても耳心地の良いトラックとラップ。日本語だけど日本語らしくないフロー。発売されたのは25年ほど前になりますが、今聞いても余裕でchillできるこの一曲に、アナタも心を奪われること間違いなしです!
日本のヒップホップのクラシックはおさえておこう
以上が、これからますます発展を遂げる日本のヒップホップシーンにおいて、おさえておくべき5つのクラシック(名曲)でした。
今ではレジェンド的にあがめられる人たちばかりですが、シーンの黎明期のとがりっぷりや今なお聞き続けられる曲の心地よさに、ぜひ耳を奪われていきましょう!
ここ数年、どんどん人気になっていくフリースタイルラップの現場でも、これらクラシックのトラックがながれることはよくあります。その瞬間にアガることができて、より現場を楽しむためにも、今からしっかり押さえておきましょう!
私も今夜は懐かしさと共に何度もリピートを繰り返してしまいそうです!